拵とは? 刀身を守る機能美と彩る装飾美を兼ね備えた究極の外装品
拵(こしらえ)とは、日本刀を持ち運ぶ際の外装のことで、鞘(さや)や柄(つか)、鍔(つば)なども含めた日本刀を飾る部品「刀装具」の総称です。
拵には、「刀身の保護」「実用性の向上」「所有者の威厳を示す」の3つの役割があり、制作者や制作年代により、さまざまな形状が考案されてきました。
ここでは拵について、その概要や歴史、代表的な形式について解説します。
拵とは
拵は刀の外装品の総称で、刀身を納める柄と鞘、鐔、太刀を佩くための吊り金具(足金物)、補強用のさまざまな金具など、一連のものを指します。
拵が制作され始めたのは弥生時代頃といわれており、そこから江戸時代に至るまで、刀の形や使われ方、装飾技術などの変化に応じて、さまざまな形の拵が考案されてきました。
拵の制作は分業制で、鞘や鍔といった各部のパーツを専門の職人が制作します。
拵は、各分野の工匠の高度な技術が詰まったものなのです。
代表的な拵
拵には時代や地方によって共通した特徴を持つ一群があり、それらを分類して「◯◯拵」と呼びます。
主なものを4つ紹介しましょう。
天正拵
天正拵は戦国時代に考案され、戦場で多く使われた実用重視の拵です。
柄は、鼓(つづみ)のように真ん中がくびれた立鼓(りゅうご)形で、鮫皮包みの上に革巻の物が多いのが特徴です。鞘は黒漆塗り、鍔は装飾性の少ない物が多く、簡素かつ機能的な仕上がりとなっています。
桃山拵
桃山拵は安土桃山時代に流行した、黄金を装飾の素材として多用した豪華絢爛な拵です。
鮫皮の突起を打出しの手法で金属板に施す「打鮫(うちざめ)」という技工により、金の板を鮫皮状にして鞘前面に被せたものや、朱塗鞘に細い金版を巻いたものなどが見られます。
肥後拵
肥後拵は千利休に学び、茶人としても知られた肥後藩主・細川三斎の美意識を映し出したとされる拵です。
使用される鍔や目貫(めぬき)、縁頭(ふちがしら)などの金具は、肥後藩の匠によるもの。茶道の感覚と居合の実用性を備えた渋い味わいの装飾が特徴で、幕末には江戸を中心に流行しました。
薩摩拵
薩摩拵は、薩摩藩を中心に伝わった古流剣術「示現流(じげんりゅう)」を振るうのに特化した拵です。
刀を抜いたときは一撃で相手を倒すことを旨とした示現流に合わせ、刀身を帯から素早く引き抜けるように返角(かえりづの)の突起が凸形になっているといった工夫があり、鞘は太めのものが多くみられます。鍔には鍔止めの穴があり、柄が抜けないよう紐で固定し、無闇に刀を抜かない戒めとしていました。
太刀拵
時代の変遷の中で刀の形や使い方が変われば、拵も変化します。
奈良~平安、鎌倉時代は、刀剣といえば、刃を下向きにして帯執(おびどり)で腰から吊るす形式で身につける太刀でした。それが室町時代になると、刃を上向きにして腰の帯に差す打刀が登場しました。太刀の拵は「太刀拵」、打刀の拵は「打刀拵」と呼ばれています。
太刀拵と打刀拵には共通する刀装具もありますが、同じ部位でも名称が違うものもあり、またそれぞれにしか見られない刀装具もあります。まずは、太刀拵から見ていきましょう。
太刀拵の刀装具
太刀拵ならではの刀装具には、次のようなものがあります。
冑金(かぶとがね)
柄頭を保護するためにつけられた金具のことで、濃密な彫刻が施されたものが多い。「兜金」とも書きます。
縁金物(ふちかなもの)
柄の口元(柄口)につける金具のこと。金や銀、銅、真鍮(しんちゅう)などの素材が使われ、金属の板に浮彫が施されています。
足金物(一の足、二の足)
太刀を吊り下げるための帯執を通す金具。鍔のすぐ下ともう少し下の2ヵ所にあり、鞘口に近い方が一の足、遠い方が二の足と呼ばれます。
帯執(おびどり)
太刀緒を通すための金具や革の装飾。足金物に付属します。
太刀緒(たちお)
太刀を腰に佩くために、腰に巻き付けて鞘を固定するための組み紐や革紐。多くは亀甲模様の組紐が用いられます。長さは約3mあり、刀を腰に佩かないときは、太刀結と呼ぶ結び方で結んでおきます。
責金物(せめかなもの)
鞘が割れるのを防ぐために、鞘の中ほどに取り付けられた環状の金具。柏葉の意匠が施された柏葉金物(かしわばかなもの)などが用いられます。
石突金物(いしづきかなもの)
鞘尻を保護するために装着された金具です。
打刀拵
打刀は、室町時代に戦闘形式が騎馬戦から徒歩戦に移行したことで生まれたもので、太刀より軽量で抜きやすいのが特徴です。一番の違いは携帯方法で、太刀は刃を下にして腰に吊るすのに対し、打刀は刃を上にして腰帯に差す方法で携帯します。
ここでは、打刀ならではの拵の特徴を見てみましょう。
打刀拵の刀装具
打刀拵ならではの刀装具には、次のようなものがあります。
頭(かしら)
柄を補強するために、柄の先端に装着された金具。多くは、縁と同じ意匠が施されます。
縁(ふち)
柄の口元(柄口)を補強するために、柄の鍔側に装着された金具。多くの場合、頭とそろいの意匠が施されます。
笄櫃、笄(こうがいびつ、こうがい)
笄櫃とは、笄を鞘に収めるために差表(体の外側にくる面)に設けられた溝のことです。
笄は、髪の乱れを直すなど、身だしなみを整えるために用いられた小道具です。
小柄櫃、小柄(こづかびつ、こづか)
小柄櫃とは、小柄を収めるために差裏の設けられた溝のことです。
小柄は、木を削ったり、紙を切ったりする細工用の小刀を指します。
笄櫃や笄、そして小柄櫃、小柄は江戸時代になると、実用性より装飾具としての芸術性が重視されるようになりました。
下緒(さげお)
刀を腰に差した際に、刀が抜け落ちないように帯に絡めて固定するための紐。長さは約170cmあります。
返角(かえりづの)
刀身を鞘から抜く際に、鞘ごと抜けないように帯に引っ掛ける留め具です。
鐺(こじり)
鞘の下端部分の破損を防ぐために装着された金具を指します。
太刀拵・打刀拵に共通
太刀拵・打刀拵に共通する刀装具
太刀拵・打刀拵に共通する刀装具としては、次のようなものがあります。
柄(つか)
刀身を保持するための部分。朴(ほお)の木を素材とし、鮫皮と呼ばれるエイの皮を被せるのが一般的です。
柄巻(つかまき)
柄の補強と手持ちのよさを高めることを目的としたもの。組紐や革緒を縁の際から巻き始め、頭の下で巻き止めます。
目釘(めくぎ)
刀身が柄から抜けないように、柄の表から裏に差し通す留め具。元々は目貫の足部分でしたが、分離して実用本位の目釘になりました。竹製、水牛の角製、金属製などがあります。
目貫(めぬき)
元々は表から裏に差し通して、刀身が柄から抜けないに固定する留め具でしたが、後に表裏が分かれて装飾性が高められました。手滑りと滑り止めの要となる金具で、表側は柄中央の縁寄り、裏側は頭寄りに装着されます。
鍔(つば)
柄と刀身の間に装着する金具。柄を握る手の保護と刀の重心の調整の役割があります。
切羽(せっぱ)
鍔を挟んで両側に装着する薄い板金。鍔を柄にしっかり固定するためのものです。
鞘(さや)
刀身が収まっている部分。雨やほこりから刀身を保護するのが役割ですが、近世以降は多様な装飾が施されました。木地を漆塗したものが一般的ですが、革で覆ったものや鮫皮を巻いたものなどもあります。
拵は刀剣の価値を高める大きな魅力をもっている
拵は、刀身を保護するとともに、刀剣の実用性を高め、所有者の威厳を示すものです。各分野の匠の技術が結集した作品でもあり、同じものはこの世に2つとありません。日本刀を見る際は、刀身に注目してしまいがちですが、拵も含めて日本刀の魅力といえるのです。
日本の大切な技術を後世に伝えるためにも、日本刀をはじめ、鞘をはじめとする拵などの外装品ついてもご不明点がございましたら、お気軽に全国刀剣買取センターまでお問い合わせくださいませ。