鞘とは?刀を守り、優美さも備えた職人技の光る外装品

2022年09月01日(木)

日本刀をはじめとする、あらゆる刀にとって必要不可欠な道具はいくつかありますが、そのうちの一つが「鞘」です。鞘は、刀から周りを、そして刀そのものを汚れなどから守るために作られた道具。日本刀はその刀身ばかりに目が行きがちですが、鞘に施された職人技にも注目です。
ここでは、鞘について、歴史や種類、そして作り方など、鞘にまつわる基礎知識を解説します。

日本刀における鞘とは

鞘は、日本刀の外装部分である「刀装」の一つで、刀身を納める筒のことです。
刀身は抜き身の状態では怪我のおそれがあるため、安全に保管したり、携帯したりするために鞘が作られました。また、日本刀が身分や権力の象徴であることから、鞘にもそれにふさわしい装飾が施されるようになりました。
このほか、刀は抜き身で放置すると、空気中や埃に混じった湿気によって錆が生じます。そのため、外気から保護する役割を持つ鞘も作られました。

鞘の歴史

刀剣は、古くは弥生時代から日本に存在し、鞘も遺跡から出土しています。碧玉や赤い漆で飾るなど、すでに所有者の権力を象徴する物として作られていました。材質は、木のほか動物の皮を使ったものもあったようです。
古墳時代になると、木製のほか、鹿の角や全体に金属を用いた鞘が作られるようになります。奈良時代には、木製の鞘に金具をはめて装飾したものなどがあり、装飾品としての価値がますます高まっていったようです。
平安時代以降に太刀が作られるようになり、やがて室町時代後期から打刀が登場します。太刀や打刀に共通するのは、刀身に反りがあること。それに合わせて鞘も反りがつくようになり、鞘の内側が刀身に触れないよう個々の刀に合わせて作る技術が確立していきました。

鞘の種類

鞘には、刀を持ち歩く際に使う「拵(こしらえ)」と、保管用に用いる「白鞘(しらさや)」の2種類があります。
それぞれの違いについて解説します。

拵は、鞘のほか、柄(つか)や鍔(つば)なども含めて刀身を飾る部分の総称です。鞘は木地に漆を塗り、金具などの装飾を施します。太刀の場合は足金物と帯取がつけられ、帯から下げられるようにします。打刀の鞘の場合、小柄(こづか)や笄(こうがい)といった道具を納めるための工夫が施されます。拵は、いわば日本刀の外出着なのです。

白鞘

白鞘は、鍔もつけず、白木のままで仕上げたものをいいます。実は、拵のまま刀身をいれておくと通気性の問題で刀に錆が生じます。拵は携帯用で、装飾品としての役割が高いため、刀の保管には向かない作りになっているのです。
白鞘は「休鞘(やすめさや)」とも呼ばれ、まさに刀身を保管するための鞘。白木のままのため、鞘の内部の湿度が保たれ、刀が錆びにくくなっています。また、鞘の合わせ目は簡単に割れるようにしてあるため、鞘の内部も掃除しやすく、清潔に保てるような作りになっているのです。なお、鞘と同時に柄も簡単に外せるような作りになっています。そのため、白鞘のままで刀を用いることは大変危険です。

鞘の作り方

日本刀は、その製作においてあらゆる職人が携わり、それぞれの技を研鑽させて作られています。鞘も専用の職人「鞘師」がいて、刀身に合わせたベストな鞘を作り出しているのです。
前項で解説したとおり、鞘は主に「拵」と「白鞘」に分けられますが、途中までの作りはほぼ同じ。ここからは、鞘の材料と鞘師の仕事である、製作工程について紹介します。

鞘の材料

鞘の材料として定着したものに朴木(ホオノキ)があります。朴木は、強度がありながらも、刀身を傷つけず、加工しやすい適度な柔らかさがあり、油分が少なく、そして入手しやすいことから鞘の材料として最適となったようです。

鞘の製作工程

鞘師が鞘を作る工程について、順に紹介します。

白鞘

・材料を選んで形どりする(木取り)
伐採し、10年以上自然乾燥させた朴木の中から、木目などを確認し、鞘師にとって加工しやすく、木肌の美しいものを選択。選んだ木材に刀身を置き、線をつけて形どりをします。刀身の形よりも大きめに鋸で切り出し、鞘材とします。

・木をくり抜く(掻き入れ)
鞘材を縦半分にまっすぐ割り、内側に刀身の形を描写。さまざまな鑿(のみ)を駆使して、鞘材を削ります。刀身ごとに反りや刃先の曲がりが異なるため、カスタマイズしながらくり抜いていきます。
ある程度くり抜いたら、鞘材を合わせて、油を塗った刀身をいれ、油の付着で刀身と鞘の内部が当たる部分を確かめます。鞘に刀身が当たっていると、その部分から刀に錆が生じてしまうからです。鞘の内側と刀身が当たらず、かといって鞘の内部が広くなりすぎないように微調整を重ねてくり抜きます。

・木を合わせる(糊付け)
刀身がきれいに収まるようになったら、2枚に分かれている鞘材を貼り合わせます。このときにつかう接着剤が「続飯(そくい)」です。続飯は飯粒を練って作った糊で、化学薬品ではないため刀身に影響を及ぼさず、また接着力がありながらも強すぎないため、接着後でもある程度の力を加えると、鞘を傷めずに剥がすことができます。

・木を削って磨く(削り、磨き)
貼り合わせた鞘材の外側を鉋(かんな)で削ります。柄と鞘が合わさる部分を作り、柄には茎(なかご)を固定する目釘穴を開け、仕上がりに面取りをします。
外側を木賊(とくさ)や椋(むく)の葉を使ってなめらかに磨き上げて、白鞘の完成です。

拵(拵下地)

拵は、おおざっぱにいえば、白鞘の状態から漆を塗ったり、装具をつけたりしたものです。拵の場合は漆を塗るため、その分の厚みを考慮して、白鞘よりも外側を薄く仕上げます。また、小柄や笄を収める場合、それぞれの櫃穴(ひつあな)を作ります。
この後、漆塗りは塗師(ぬし)、柄の装飾は柄巻師(つかまきし)、装飾金具は金工師(きんこうし)などの手に委ねられるため、鞘師の仕事は、拵下地として仕上げるところまでです。
※ただし、どこまで担当するかは個人差があります。

鞘と漆

日本刀の鞘というと、真っ先に思い浮かぶのは黒漆を塗った鞘ではないでしょうか。
日本の伝統技法の一つである漆塗りは、さまざまな木工品に施されてきましたが、中でも鞘に施す漆塗りは「変わり塗り」とも呼ばれ、鞘専門で漆を施す鞘塗師もいたようです。拵下地に、黒に限らずさまざまな色の漆を塗ったり、鮫皮や葉、型紙などを使って漆を塗ったりして多様な文様を出し、鞘に装飾を施します。
時代劇の影響もあって「鞘=黒」のイメージが強くなったようですが、実際は、塗師によってさまざまな文様の鞘が作られ、装飾品として価値の高いものになっていったのです。

常に刀とともにあった鞘。その職人技も見逃せない

鞘は、刀身を携帯するための道具として、また刀身そのものを守るために作られた道具です。有史以来、常に刀とともにあった鞘。日本刀の主役は刀身かもしれませんが、その刀身を活かす鞘は、欠かすことの出来ない名脇役。鞘に施される技術は、素材選びから削り、仕上げにいたるまで、決して一朝一夕では出来ない職人技なのです。

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